Vol.3 目が開く前から訓練開始
出産後も息が荒いロータス。平沢さんの心配は的中しました。 その日の夕方、平沢さんが病院に連れて行くと、まだ、おなかに2頭の子犬が残っていたのです。
私たちが盲導犬に採用しているラブラドルレトリバーは、1回の出産で6-10頭程度の子犬を産みます。ただ、予測が難しいケースは多く、今回も、直前のエコー検査では正確な頭数が分かりませんでした。残念ながら2頭に息はありませんでした。ロータスも病院に行かなければ命を落としていたかもしれません。犬の世界も生と死は隣り合わせです。
ロータスの出産が終わっても、平沢さんには息をつく暇はありません。生後10日ほどで子犬たちの目が開き、よちよちと歩き始め、やがて“ちびっ子ギャング”に変身。じゃれ合ったり、部屋中を動き回ってテーブルの脚やソファなどをかじったり、とてもやんちゃです。
離乳食を皿に入れるとものすごい勢いで駆け寄ってきて、早く食べ終わると、ほかの皿から横取りしてしまします。成長に差が出ないようにする必要があるので、食事中も目を離すことはできません。訓練も始まります。目が開く前から子犬たちと猫を同居させ、猫のにおいに慣れさせます。仲間だと思わせるのです。箱に入れて外へ行き、車や電車の音を聞かせたり、家族以外の人たちに触れてもらったりして、どんな状況でも落ち着いていられるようにします。
元気いっぱいな子犬たちを育てながら訓練するのは大変ですが、この生活も生後50日目で終わりです、子犬たちは1頭ずつ、育成ボランティアへと引継がれます。盲導犬は、人の命を預からなければなりません。一つの家庭で複数の子犬を訓練するのは、やはり難しいのです。
繁殖ボランティアの皆さんは、子犬の育成と訓練から解放されますが、心境は複雑。「心に穴が開いたようだ」と話された人もいました。
ロータスの最初の子犬が、センターに引き渡されたのは2年前。その時、平沢さんは寂しそうな表情をみせず、「しっかりがんばれよ」と頭をなでながら語りかける声が優しかったのを、今も鮮明に覚えています。
Graceful Land 代表 桜井昭生
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。